特別受益がある場合の遺産分割
1 特別受益とは
相続は原則、同じ立場の人が相続する場合、全体の亡くなった人(被相続人)の財産から同じだけの割合を得ることになります。
例えば、ある父親が亡くなり、その人に妻と子ども3人がいた場合、妻の立場にある人は2分の1、子どもはそれぞれ6分の1ずつ相続することになり、同じ被相続人の子どもである以上、原則、同じだけの割合を相続することになります。
しかし、相続人が複数人いる場合に、その中に被相続人から生前又は死後(遺贈として)特別にお金などをもらっていた者がいる場合、何ももらっていない人と同じだけ相続のときにもらえるとすると、相続人間で不公平が生じます。
そこで、民法は被相続人からある種の利益を得ていた人がいる場合は、その特別の利益を相続の前渡しとして考えて、それぞれの相続人が相続の時にいくらもらえるのか計算することがあります。
この相続人間での公平を図るために考慮される利益こそが「特別受益」です。
2 遺産分割時の特別受益の考慮
特別受益がある場合は、単純に同じ割合で相続しない場合があり、下記の通り、計算する必要があります。
① みなし相続財産を把握する
相続開始時に被相続人名義ないし、所持していたような財産の額に、相続分の前渡しとして評価される贈与の額を合計します。
贈与という相続財産の流出を元に戻すイメージです。
この合計額が「みなし相続財産」として、相続分の計算の基礎になります。
(注意点1)
この時、被相続人の債務(マイナスの財産)については、計算に含めません。
(注意点2)
遺贈は、その目的にかかわらずに特別受益となります(民法903条1項)が、「みなし相続財産」として計算に含まれないと考えられています。
死後受け取ることになる遺贈については、相続開始時に支払われるため、「みなし相続財産」として扱う必要がないためです。
② 一応の相続分
「みなし相続財産」に各相続人の相続分を掛け算して、それぞれの相続分を算定します。
③ 具体的な相続分
特別受益(ここでは、遺贈も含めます)を受けた人については、②により算定された額からその分を減額します。
その残額が、特別受益者が実際に相続によって得られる利益の額(具体的な相続分)となります。
3 計算の具体例
先の父親が亡くなった例でみてみましょう。
父親(被相続人)がA、妻がB、子どもがCDEとし、AはCに自宅を建てるために1000万円を生前に渡しており、Dには1000万円の遺贈を行ったとします(自宅を建てるためにお金を渡すことは特別受益に当たると考えてください。)。
Aが亡くなったときに8000万円の預貯金があったときにどのように分配されるか上記の計算に当てはめると、以下のようになります。
⑴ みなし相続財産
8000万円+1000万円=9000万円
⑵ 一応の相続分
B:9000万円×1/2=4500万円
C:9000万円×1/6=1500万円
D:9000万円×1/6=1500万円
E:9000万円×1/6=1500万円
⑶ 具体的な相続分
B:4500万円
C:1500万円―1000万円=500万円
D:1500万円―1000万円=500万円
E:1500万円
となります。
そして、これに、1000万円がDに遺贈されますので、Aが亡くなった時の8000万円預貯金の分配としては、
B:4500万円
C:500万円
D:500万円+1000万円(遺贈)=1500万円
E:1500万円
となります。
Cだけが、相続時に少ない額しかもらえていないようにも見えますが、これは、生前に1000万円の特別受益を得ているため、全体としては不公平ではないという考え方になります。